遠藤賢司さんとの思い出


この“夢よ叫べ”のソロを録音するに当たってエンケンさんと少し揉めたことがありました。 エンケンさんの普段のやり方として一緒にあるいは自分の前で録音して欲しいと。それは当然のこととして分かりますが、僕もとことん自分と向き合ってエンケンさんの歌に引けを取らない次元まで仕上げたいと。つまり自分の家でひとりで集中して録音させて欲しいと言い張り、そこはお互いなかなか譲ることが出来ませんでした。 エンケンさんに頼まれたレコーディングですからエンケンさんの言うことを聞くのが筋だとは思います。でも、僕はひとりで自分を追い込んで最高のものに仕上げる、それがこの作品をより完成度の高いものにする方法だと、そしてそれがこのエンケンさんの名曲のためにも最善の方法だと信じていました。最終的には、「もし僕の録ったソロが気に入らなかったら、その時はエンケンさんのおっしゃる方法でやります」と約束してスタジオを後にしました。 送られてきたエンケンさんの歌とギターを何度も聴き、使うギターを決め、自分の部屋で納得のいくところまでソロを録音し続けました。 完成したのが午前3時。すぐにエンケンさんに送りました。 翌朝、エンケンさんから電話がかかって来ました。「恭司くん、聴いたよ」と。 その後に何を言われるか、一抹の不安はありました…。 少しの沈黙の後「悔しいけど泣いたよ。ありがとう。」 それがエンケンさんからの優しい言葉でした。 あの日を境に僕とエンケンさんの信頼関係はもっと深まって行ったように思います。 「ちゃんとやれ!えんけん!」とエンケンさんは自分に向かって仰います。そして僕も「ちゃんとやれ!きょうじ!」と常に自分に言い聞かせています。 エンケンさんの音楽へのひたむきさは、いつどこで見ても素晴らしかったです。常に誰よりも本気、良くなかったことなどただの一度もありません。 あんなに繊細でいながら宇宙規模のパワーをまき散らす人も他には見たことないです。 3年前に亡くなった僕の父のこともいつもとても気にかけてくれていました。松江のライヴの後、当時90歳を超えていた父がエンケンさんの楽屋まで「とても良かった!頑張ったのう」と褒めに行ったらしく、エンケンさんはそのことを何度も何度も嬉しそうに話してくれました。 父にその話をすると「それは見送りに行かんといけん!」と言って、きちんとスーツに着替え、お土産を持って出雲空港まで帰京されるエンケンさんに会いにに行ったこともありました。 エンケンさんが癌だとニュースに載ったのが去年の6月。 その少し前にエンケンさんから僕に「アコースティックギターを上げようか?良かったら取りに来てね。」とメールが来ました。自宅に取りに伺ったのは5月24日のことでした。 玄関のたたきに座ったままのエンケンさん、一目見て今どういう状態にあるのか分かってしまいました…。 その帰りの車の中から打ったメール…。 「今、車の中で夢よ叫べを口ずさんでいました。 頑張れよなんていいません。言うんじゃないって言われてますから(笑) 松江でも夢よ叫べ一緒に演奏させて下さいね~♪ 楽しみにしてますからね~。 ギターも本当にありがとうございました♪」 (エンケンさんの不滅の男の歌詞の中に『頑張れよなんて言うんじゃないよ。俺はいつでも最高なのさ!』という一節があります) それに対してのエンケンさんの返信は 「松江で夢よ叫べ一緒にやれること目指して頑張ります。山恭はチャントヤル不滅の男!だから「頑張れ!遠賢」と言って下さい。」・・・でした。 あんなに頑張っているエンケンさんに「頑張れ」なんて僕からはとても言える言葉ではありません。「共に頑張りましょう♪」が精一杯でした。 その後順調に回復され、今年1月に行われたエンケンさんの70歳のバースデイライヴは、まるで鬼神が乗り移ったかの如く物凄いライヴでした。 ロックとかフォークとかそんな次元は超越した、人間ここまで出来るんだ!と思わせてくれたライヴ、とても病魔と闘っている人のパフォーマンスではなかったです。 エンケンさんとは、突然声をかけられた1980年の渋谷ワルツでのライヴからこの2017年の70歳バースデイライヴまで何度も一緒に演奏させてもらいました。 息使いまで聴こえる距離でエンケンさんの全身全霊をかけた“夢よ叫べ”も。 それは正に命を削ってのパフォーマンスだったのだろうと思います。 70歳というのはどう考えても早過ぎます。 でもエンケンさんは長生きすることよりも命をかけた自分の音楽に対する姿勢を貫くことを選ばれたのだろうと思います。 僕はそう思うことにしました。 大好きなエンケンさん、素晴らしいエンケンさん、これまで本当にありがとうございました。 素晴らしい音楽人生。僕も見習います。 「ちゃんとやります!」 2017年10月26日 山恭 

 ※この“夢よ叫べ-2012-”はエンケンさんの『ちゃんとやれ!えんけん!』と言うアルバムに収録されています。 エンケンさんの魂の叫びをぜひ多くの方に聴いて頂きたいです。


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